エリクソンのライフサイクル論③―Ⅳ期
ライフサイクル、その完結
Ⅳ.学童期(7~12歳)「勤勉性(/劣等感)」の基礎づくり―授業時間より休み時間に多くを学ぶ
小学生時代のテーマは勤勉性である。
学童期は、勉強や遊びを通して、自分も自分なりにやって行けるという有能感を持つことで自信をつけ、将来大人になった時に勤勉に生きて行く心の基礎を作る時期に当たる。
子供は、周りの要求(例えば、親の要求など)と自分の要求のバランスさえとれていれば、学ぶこと自体は、基本的に新しい発見に喜びを伴うものであるから、楽しいと感じ「自分は自分なりにやっていける力がある、学ぶことは面白い」という感覚、有能感が育ってくるものなのである。
また、同世代の仲間と道具や知識、体験を共有し一緒に遊び自然な交わりを体験することで、「みんなとやっていける、ついていける」という自信が有能感になるのであり、これらの感覚は社会に適応していく基礎を作り、勤勉性を導くものとなる。
外的な要求が強く、有能感が育たなかったり、自然な交わりを体験できていないと、劣等感が生まれてきて、将来の社会生活に支障を来すようになる。
学童期は、社会に対する自分の適格性を確認し、勤勉に生きて行く基を、この期間に身につける時期でもあり、有能感は社会的に生きて行くうえで欠かせない心の力であり、それは勤勉性に繋がるが、劣等感は勤勉性を損なうのである。
エリクソンは、友達は質より量の方が重要であるとし、たくさんのことを教え学び合うことに意味があると言う。
勤勉性は勉強よりも遊びの人間関係で育ち、休み時間に友達と仲よく、生き生きと過ごせるかが重要であり、授業の落ちこぼれは社会人としての落ちこぼれに直結しないが、休み時間の落ちこぼれは社会人としての落ちこぼれに直結するという。
大人からではなく、友達と教え、教えられる経験が社会的に勤勉に生きる基になるとしている。
つまりよく遊んだ子は、将来よく働くのである。
この学童期に勤勉性を学ばないと、社会に出てから勤勉に働くことが困難になる。会社や社会が自分に期待していることを理解して、その為に習慣的に努力することが出来ないのである。なぜなら、勤勉性を導く人と交流できるという有能感が育っていないと、職場で同僚、先輩、上司との自然な交わりが、つまりは社会の中でコミュニケーションがとれず、人間関係の構築が出来ないからである。
友達と遊びながらコミュニケーションをした経験が希薄で勤勉性を獲得できなかった人には適応障害が発症しやすいが、それは「会社が合わない」のではなく、「会社で健全な人間関係が出来ない、豊かな交わりが無い、学び合うことが出来ない」ので、仕事をすることが大きなストレスになり働けなくなるのである。
つまり、適応障害は、学童期の本当の意味での学び合う経験を積んでいないか、それ以前の自律性、基本的信頼性が得られていないためのつまずきが表出したものとして捉えることが出来る。
このような場合は、仕事の努力をするだけでなく、コミュニケ―ション、人間関係のやり直しが必要なのである。
学童期に,友達とよく遊べずにコミュニケ―ションがとれなかったという躓きは、社会的に勤勉に働くことが出来ないという形で現れる。前述したように、その理由は、自信がないから、職場で同僚や先輩、上司と、自然な交わりが出来ず、会社や社会が自分に期待していることを理解し、そのために習慣的に努力することが出来ないからである。
会社が合わないのではなく、会社で健全な人間関係が築けないからなのである。豊かな交わりが無い、コミュニケーションが取れないから学び合うことが出来ず、自分の知っている事しか出来なく、孤立してしまうのである。
このような場合は、仕事の努力をするだけでなく、人間関係の作り直しが必要となる。
働き続けることのできない、適応障害の若者には、本人の意欲や、技能の問題だけではなく、学童期あるいはそれ以前のつまずきがあると認識して、コミュニケ―ション、人間関係のやり直しが必要なのである
つまり、小学生の過ごし方が大人になった時、社会的に勤勉に生きていけるかどうかの重要なポイントになり、その基礎づくりになるとしているのである。
発達心理学では、エリクソンは学童期と成人期の間を青年期(13~22歳頃)としているが、それを青年前期(13~15歳)、青年中期(16~18歳)、青年後期(19~22歳)の3期に分けて記述することもある。それとは別に、学童期の後半から青年期の中期にまたがる期間を思春期とし、前思春期(10~12歳)、思春期前半(13~15歳青年前期)、思春期後半(16~18歳、青年中期)、と区分する考えもある。なぜなら、この時期には特有の精神病理があり、それが将来に大きな影響を与えるから、より細分化して捉えようとするのである。
*前思春期(10~12歳)
前思春期とは思春期に入る準備をする期間である。
思春期とは、性機能の発現に伴って性欲を体験し、自己が性的な存在として意識されるともに、異性が異性として登場し、性欲という身体の次元の欲求と、親密さという精神の次元の欲求を統合的に充足させることが、一つの課題になってくる時期であるから、自己中心的な思考を脱し、他者を認める「共感性」が大事になってくる時期になる。
前思春期は友達関係を通じて共感性が増大、深化する時期であり、その後の人格の統合的発達の基盤となることが、とりわけ強調されるのである。
前思春期になると、子供の心の中に愛の能力ないし親密さを求める気持ちが芽生え、同性の親友が出来、二人の間で、人生や世界におけるあらゆることに自分たちの感覚、思考、感情などの体験について相互に語り合い確かめ合うようになる。そして他者の視点を取り入れることで自己中心的な視野を超えて自他共通の人間性に目覚め、人間一般や共同体としての社会や世界に対する共感的態度が持てるようになる。
また自然と5,6人の友人が仲間・徒党を組んで行動するようになり、そこで絆や相互依存、一体感、共感性を養うことになる。
前思春期が重要なのは、この時期が親友、仲間・徒党という友達関係を通じて共感性が増大、深化する時期であり、それがその後の自己中心性から脱却し人格の統合的発達の基盤となることである。共感こそが、自己の自立と他者との共存を共に可能にする基盤なのである。
サリヴァンよれば、「共感とは他者の満足(身体的な欲求充足)と安全(精神的な安定)とが自己のそれと同等の意味を持つ」ことと定義され、彼はこの年代の友達関係の人格発達に対する重要性を強調している。
学童期後半・前思春期に同性、同世代の友達関係を十分経験していないと、思春期に入ってから様々な問題が生じてくるからである。