イングリッシュガーデン
私の勤務する群馬病院は精神科単科病院?精神病院です。
一昨年の4月に新しく病院の建物が建て替えになり、これからの新しい精神科医療を目指して、いくつかの新しい試みがなされています。
一つは、前にもどこかでご紹介したと思いますが、
日本のパン屋のカリスマ、シニフィアンシニフィエの志賀勝栄氏の監修によるパン工房があります。
もう一つは5000?にも及ぶイングリッシュガーデンです。
専任のガーデナーSさんが中心となり管理しています。
彼女の母校である恵泉女子大学のイングリッシュガーデンが蓼科にあり、何でも当院のイングリッシュガーデンのお手本になっていると聞いて、
見学に連れていってもらう約束をしていたのが、今回ようやく実現しました。
そこは卒業生の同伴でないと見学できないとのことである。
自宅の庭を作る時に、多少は勉強したので、恵泉出身の優秀な女性ガーデナーが多い事は知っていましたし、特に日陰のシェアドガーデンにいいものがあったので、自宅の庭の参考になることも多いのではないかと思ったのです。
7月某日曜日、一日早く私は蓼科の我が山荘に行き、当日朝9時過ぎには、病院のガーデナーSさんの2人と、見学希望のご友人2人を加えての
4人を我が家でお迎えし、テラスでお茶を飲んで一服してから、
原則門外不出の恵泉大学蓼科ガーデンを訪ねました。
地理的には、同じ蓼科でも我が家とは反対側に位置し、茅野の別荘地、“三井の森”の中の一画にありました。
一般には公開されていませんので案内表示は出ていませんが、三井の森の入口、康耀堂美術館からすぐでした。
ガーデン長の小沢さんはSさんとは顔なじみのようで、つきっきりで案内していただきました。
庭は10000?に及ぶ広大なもので、作庭の特徴によって10余りのブロックに分けられておりましたが、基本は蓼科の自然、風土を生かした設計になっているとのことでした。
イングリッシュガーデンを拝見してずぶの素人の小生の感じたままを述べてみます。
家屋の手前の芝の庭と木立の繁る林との境に草花を植えてボーダーガーデンを創るのが基本のように見受けましが、草花の成長した樹形と開花時期を計算して植栽のデザインするのが最も重要なポイントのように思えましたが、それでもその出来栄えは、ある意味では、人智を離れて天に任せるしかないところがあるのではないかと感じました。
日光や雨の量まではデザイン出来ないので、これは、周到にデザインはするが、最後は窯の炎の妙に任せるしかない、作陶に通ずるところがあるように思えました。
そしてその姿形は日々の陽の光や風の具合で変化し移ろうであろうから、見るものをして自然との一体感が感じさせ、それがあの居心地の良さ、癒され感をもたらすのだろうと思えました。
そして、経験から学習して毎年、毎年進歩し続けることが出来るところが、日本庭園のようにプロフェッショナルな名人芸を要求されず、どこかアマチュア的というか、英国ではプロではない素人の老婦人でもコンクールに入賞すると聞きますが、日本庭園が権威的であるのに対して、どこかLOHAS的にもみえます。
また日本庭園がどこか宗教的、哲学的であるに対して、心理学的であるともいえます。
宇宙の星達が、所属する銀河系も、地球からの光年も違うのに同じ天空に同時に配置されているように見え、ある人にはそれらが白鳥や竪琴などの星座野形となってみえて、重要な意味合いを持つように、一見別々の種類の花々を配置し混在させながらも、そこにハーモニーが生じ何らかのテーマを表出しているかのように思えるからです。
ユング心理学でいう布置コンステレーションがイングリッシュガーデンの根底的な概念のように思えます。
また作庭者ガーデナーの個性、センスが如実にあらわれ、庭全体がどこかパーソナルな感じを受けます。
大きな日本庭園のように、大名や財界人の大きな権力や財力を感じさせないところも好ましい。
もっとも恵泉ガーデンや、近くの蓼科バラクラガーデンのような規模になると、とても個人という訳にはい行かないでしょうが、それでも主役はガーデナーという雰囲気が感じられるところが良い。
恵泉ガーデンの周辺には、イングリッシュガーデンを備えた英国風の別荘がいくつも建っており、中には永住されている方も多いと聞いたが、小生ももう少し若く、かつ財力があったならば、茅葺の英国風のロッジでも建て、ガレージには旧い英国車をおいて、周りはそれらを覆い隠すような草花のイングリッシュガーデンを作って暮らしてみたいものである。
ユングが石を積んで別荘を手作りし、丸山健二が渾身のバラ園を自ら作ったように。
そんな暮らしを夢想させた今回の恵泉イングリッシュガーデン訪問でした。