理解のための基礎知識-自我機能、自律機能と健康
自我の機能的な役割は、フロイトは自我、超自我、エスの3つの領域の精神内界の力動的な葛藤の調整役、つまりは防衛、適応を司る統合機能としての心的機関であるとしてきた。
ハルトマンは自我には、フロイトの指摘した衝動とその結果生じる葛藤からの影響をうけない、葛藤から自由な自我conflict free egoが存在するとして自我自律性ego autonomyの概念を導入し、知覚、運動性、意図、知性、思考、言語などを、自我の自律的な機能としてあげている。
そして自我を、防衛機能、自律機能の他、種々機能を合わせて司る人格の中枢機関として明確に定義した。
その後自我の機能的役割が重視されるようになり、様々な自我機能が指摘されるようになった。
ここでは代表的な6つの自我機能について説明する。
? 現実機能(現実検討、自我境界維持機能):自分の置かれた状況判断して、あるべき方向性を見つけていく機能(現実検討機能)と、自分が感じ考えていることと実際の現実、事実との違いが区別出来る能力(自我境界維持機能)を言う。
? 防衛機能:精神内面で自分を安定させるために、欲動と超自我の両方に調整的に働いて、自分の中が安定して、葛藤的でなく、不安でない、落ち着いていられるように操作する機能をいいます。
? 適応機能:防衛が内面に向かうものであるならば、これは外に向かって働く機能で?の現実検討の結果をどう自己表現し、振舞うべきか、自分をどのように生かしてそれを実行するかを操作する機能をいいます。
? 対象関係機能:自分の内面に思い描いている自己や対象に対するイメージ像を表象といい、これらが自分の中で動いていることを対象関係といいます。表象がうまく出来あがっていないと、コミュニケーションがうまくとれず、人間関係がうまく行かなくなります。
? 自律機能:自我の調整役としてではなく、葛藤に関与されない自律的な機能で、自分の成長、発達や新しい自分を創り出すという前向き、向上的な姿勢に寄与する機能です。(この機能は、孟子の性善説における本性,朱子の本然の性に通じるようにも思われます。)
またこの機能が働かないと、すべてに無関心、無気力になってしまいます。
? 統合機能:自分を自分というひとまとめにしておく機能で、それがゆるいと思春期危機と呼ばれるような一時的なアイデンティティの揺らぎ、拡散が生じ、自分がわからなくなってしまったりするし、またそれが無くなると多重人格や人格がバラバラに崩壊してしまいます。
これらの緒機能は全部まとめて自我機能であり、同時に多方向に働いて現実適応していきます。これら機能の働き方には幾つものパターンがあり、それを機制(メカニズム)と言います。(防衛、抑圧、反動形成、退行等々)
自我が強いというのは、俗に我が強いというのとは別で、自我の各機能が対応を調整しつつ総合的に自我機能をフルにうまく働かせることが出来る柔軟性のことを言います。
また自我の働きは体調とも深い関係があり、健康でないと自我機能はうまく働かず、例えば病気になると自我機能は衰え、自分は何も出来ないというように悲観的に弱気になってしまいます。
不安の心理は内面に何か葛藤があり自我がそれを無理して抑えていると起こります。不安は内面で何かうまくいっていないことの信号であり、調整がうまくいっていないと、その防衛活動に自我のエネルギーの多くが取られ、その他の、自律機能などの自我機能がおろそかになります。
もし、いつも身体的、精神的理由で自我が葛藤に巻き込まれていると自律機能が下がり、正常な成長が遅れたり、社会に上手く参加出来なくなります。
この事は、フロイトが自我を動かすエネルギー量は、ニュートンの力学的エネルギー保存の法則にならって一定であるとしていることより導き出されます。