MENU

美容整心メンタルこころの研究室

自律統合性Autonomous Integrityについてーその2

心の各領域における自律統合性機能AIFの働き
フロイトの構造論に沿って、心の各領域におけるAIFの働きを見てみよう。

霊性領域におけるAIFの働き
「霊性」の概念はフロイトには無く、キリスト教やグノーシス主義ではガイスト、スピリットと呼ばれ、ゼーレ(魂)の上位に置かれ、神そのものを意味したようだ。オスラ―が、その概念を治療に導入し、WHOが健康の定義を「健康とは、完全な肉体的、精神的、霊的及び社会的福祉の活力ある状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」としようとしたことで注目された。(WHAで否決されたが。)

 斎藤は、心の機能の内で「世界観、自己認識、生の意味付け」などが霊性と呼ばれるとし(斎藤学、「アダルトチルドレンと家族」,学陽書房、1996)、浜田は、自説の人間学的三元論で霊性を、生きる目的、価値、尊厳等の人間的条件の根源にかかわる行動原理として、魂の上部構造に位置付けている。(浜田秀伯、「精神医学エッセンス第2版」、弘文堂、2011)

 私は、霊性を浜田とほぼ同様に捉えるが、人の内的世界から宇宙に連なる超越的な規範としての自律統合性の中で位置づけた。霊性領域におけるAIFの役割は次のようなものとする。

 「生きること」を自明なこととして受けとめられる自己肯定感や生きる意味、生きる価値、尊厳など生の根源的意義を見出すのが霊性の働きであり、AIFがうまく働かないと、思春期以前から、「生きること」を素直に受け止められず、「生きること」に苦しむことになる。(例えば、アダルトチルドレンや境界性パーソナリティ障害のように。)

 これは誰しもが思春期から青年期に思い悩む、自然発生的な哲学的な課題の範疇とは別のものであり、生存の基底を襲い、精神の不安定さを強く根づかせるものとなる。

 AIFがうまく機能すれば、「生きること」というアプリオリな問いから来る深刻な悩みは軽減され、自らの尊厳を保ち、社会生活の中で安定した精神状態を保持できるように働くシステムになる。

自我領域におけるAIFの働き

 自我領域では、AIFは、自我の発達過程に関与し正常な発達を促す(コントロールする)機能でもある。

 具体的には1)フロイト、自我心理学の発達論、2)マーラの分離―個体化の発達、3)スターンの自己感、4)対象関係の発達、5)カーンバーグの人格構造形成,等で説明される自我発達の正常な発達を促すのがAIFの役割と考える。

 完成された自我においては次のような働きをする。

① 自我機能,機制は単発ではなく、同時多発的に働くので、それらの相互関係を調整して総合的にバランス良く働くようにAIFは作用する。例えば,防衛機機能と適応機能の連動作用を調整し、エスとエゴ領域の調整を図り、昇華を実現させる。
AIFの機能が十分に働かないと、神経症やPTSDになりやすくなる。

② AIFは自我のエネルギー配分を調整し(葛藤エネルギーの逆備給を減らし自律エネルギーの備給を増やす)、自我を強固にし、柔軟性を与え、同時に自我の「自律機能」を高め、エスが昇華されやすいように導く。つまりAIFは人が社会に向かって向上的に生産的に成長しようとするように仕向ける。

③ AIFは、タテマエの自分(偽りの自己)false selfとホンネの自分(真の自己)true selfをうまく使い分け、それにより自我は防衛機制を上手く使うことが出来るようになる。

④ AIFは、自我を二次的心理過程(reality principle)と一次的心理過程(pleasure principle)の間で、退行、進展、振動の様式で移動させ、自我の機能を調節する。病的な退行もあるが、健康的に退行(自我のための退行)すると、創造的自我を形成する。その過程にAIFは関与する。
AIFがうまく機能すると創造的発想、行為が豊かになる。

⑤ 統合機能は、自分を自分という一まとめにしておく自我の機能とされるが、それは他の自我機能を束ねるメタ機能であり、それを他の自我機能と並列的に置くより、上位機能としてのAIFが直接的に関与している機能とした方が理解しやすい。

超自我におけるAIFの働き
 超自我⇒自己規制⇒自我理想への進展を促すようにAIFは機能する。理想に自分を照らし合わせて行動させる機能である。

AIFがうまく機能しないと超自我が弱く、反社会性パーソナリティ障害になりやすい。

エス領域におけるAIFの働き
 エスとは、リビドー(エロス)、アグレッション(タナトス)のカオスだけではなく、それにまつわる記憶、感情、願望など意識化してはいけないモノ、意識化出来ないモノ、意識化したくないモノ,しないでいるモノが抑圧されて無意識下に置かれているものを言うが(ユングの個人的無意識)、AIFは、エスを中和化(自我化)し、エスからの防衛を昇華に導くための手助けをする。

自己領域におけるAIFの働き
 ユング心理学の自己領域におけるAIFの作用は、ユングの言うところの、心の一般的態度の、「内向ー外向」や4つの心理機能、「思考―感情、直観―感覚」などの心の「相補性」の働きを強化させ、心のバランスを図るように働く。

 またユングの言う「個性化、自己実現」に向けて全体的に働く。

AIFは「霊性」「自律機能」に特に関係が強い。
心の力動的な動きに対しては調整的に働くが、それ以前の生の根源、生きる営みの根源に関わるような精神作用においては、生き易さ、生きずらさを演出する。

AIFの生物学的メカニズムについて
 セロトニンは攻撃性(自殺、暴力、自傷)、うつ状態、不安、強迫、衝動性に関係すると言われ、それらのいずれにも選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIが著効する例があるという。

 つまり精神医学的には別個に分類される症状が、同じモノアミン系の神経伝達物質によって呈されることになる。
 これはそれらの諸症状を統括する上部構造の存在を示唆する。同じ上部構造がセロトニンの影響を受けるが、関連する部分構造の違いで多様な症状を示すのではないかと推察できる。
 その上部構造がAIFと想定すれば、AIFが統合する精神波の波動の波形や振動数の違いで、いろいろな症状が示されると説明することができる。AIFはセロトニンを介して、うつや衝動性の症状を示したり、改善したりするのである。

 心身健康であるということは、物質波、精神波の波動、リズム振動が正調であり、かつ両者が共振しているということであり、病的であるということは、共振せず、リズム振動も失調しているものと考える。それは自律統合性機能AIFの弱体化、機能不全によってもたらされる。
つまり、AIFは物質波、精神波のリズム振動の調律と共振を図ることで心身の健康的な発達を推進し、健康を維持する役割を果たすということができる。

また恒常性機能homeostasisとは、主として物質波(身体波)に注目し、その振動のリズムバランスを保つことで身体の生物学的健康を維持するとし、自律統合性機能AIFの一つの機能と考えることが出来る。
また精神医学でいうレジリアンスResilienceとは、主として精神波に注目し、そのリズム振動のバランスを保つことで精神的健康を維持する、AIFの一つの機能と言うことが出来よう。

但し、これらの機能は独立して単独で作用するものではなく、相互に影響しあい一体化して生ずるものである。つまり物質波と精神波が共振してこそ、各々のリズム振動も維持できるものであることを強調しておきたい。

以上が、「自律統合性」「自律統合性機能」と「物質波(身体波)」「精神波」の概念(精神波①②③自律統合性①②)を導入して、心身の健康を説明し、論ずる私の仮説である。